日本茶専門店 錦園石部商店 
titel ソメイヨシノとヤブキタ
やぶきたの原樹近くのソメイヨシノ
2006.03.26撮影
 辺り一面、霞むような満開の桜。華やかでありながらどこか物悲しい、大昔からの日本の原風景とも思うような光景が、実は明治以降に出来た比較的新しいものなのだとしたら。

 『桜が創った日本』(佐藤俊樹著 岩波新書 税込¥777)はちょっと「え??」って気分になる内容の本です。(俯瞰の視点でありながらとてもヒューマンな文であり読みやすく楽しい。皆さまよろしければ御一読のほどを。)

 葉より先に花が樹を覆い、一面の桜色を創りだす。その品種はソメイヨシノ。私達にとって桜のイメージといえばソメイヨシノといっても言い過ぎではありません。実際に現在、日本に植えられている桜の約8割はソメイヨシノとの事。少し前に言われていた「生命は遺伝子の方舟」とすれば最も成功した桜なのでしょう。

 さて、そのソメイヨシノは自家不和合性(自らの花粉では種をつけない。)で挿し木、もしくは継ぎ木で日本全国に広がっていきました。お茶について知っている人ならこの辺りで「ん???なんかあの品種似ているな。」となってきます。そう。「ヤブキタ」のようです。(茶も自家不和合性であるから主に挿し木で増やされます。)静岡においては9割、全国では約8割を占める茶品種。つまり、皆さんが口にするお茶の味といえば「ヤブキタ」もしくは「ヤブキタ」をベースにしたブレンドです。ヤブキタは「温和でありながら豊かな味わい」が特長です。時折、「ヤブキタは個性が無くて」なんて言われますが、品種をみていくとここまで多くの人に受け入れられやすい味、香りのお茶はちょっとありません。つまり、その意味でこんなに特長のあるお茶は無いともいえます。


やぶきたの原樹
2005.04.27撮影
 手揉みから機械製茶へ、手摘みから機械摘採へ、の時代の流れとともに摘み取りの適期が長く、良品を作りやすい品種としてさかんに導入がされました。生産量の増加による研究の進展(栽培方法、肥培管理、防除など)があり、ヤブキタは富みを多くの人達にもたらしたお茶という側面も持ちます。富みを生み、人の手によってその生息範囲を広げていきました。(海外でも栽培されています。)ヤブキタはソメイヨシノと同じくに遺伝子的にも大成功を納めた生物のひとつです。

 今から、およそ100年前まで品種と在来の比率は約1:9でした。これが現在は逆転しており、品種が9で在来が1。桜の季節の後に見られる一面に色の揃った茶園の風景もまたソメイヨシノの満開のそれと同じく比較的新しいものです。美しい光景だなあと心を奪われますが、ふと我にかえるとちょっと怖さも覚えます。なにかソメイヨシノのそれを見るように。

 石部は『桜が創った日本』を読んでソメイヨシノが今までより身近に感じられて好きになりました。

2006.03.26撮影

2006年02月27日 石部健太朗
※記載にふさわしい写真が撮れたので、3/27に画像を入れ替えました。



良い道具による充実のティータイム


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